PLUTO

ロバート・オッペンハイマー ――愚者としての科学者 (ちくま学芸文庫) 作者:藤永 茂 筑摩書房 Amazon 私がロバート・オッペンハイマーに関心を持ってから20年はたつ。オッペンハイマーの名は科学者の社会的責任が問われる時にはほとんど必ず引き合いに出され…

地獄の季節

旅立つには最高の日 作者:田中 真知 三省堂 Amazon 旅は出会いであるといわれる。だが、出会ったものとはかならず別れなくてはならない。この本では、どちらかというと、旅を通じたさまざまな別れをあつかったものが多くなった。 別れたものは、いきなりいな…

明日に向って撃て!

アメリカのありふれた町で 作者:東理夫 天夢人 Amazon なぜぼくは「アメリカ」を書くのか、と時どき自問する。簡単に言えば、この国が好きであり、面白くてたまらないからだ。面白いというのは、アメリカという国が、世界のどこの国とも異なった成り立ちを持…

ねじまき鳥クロニクル

ブロッコリー・レボリューション 作者:岡田利規 新潮社 Amazon ぼくはいまだにそのことを知らないでいるしこの先も知ることは決してないけれども、きみはバンコクの日々、ルンビニー公園にもほど近い、サートーン通りを折れたところの道路に面したアパートメ…

Anyone Who Had a Heart

家庭用安心坑夫 作者:小砂川チト 講談社 Amazon 尾去沢ツトムは、小波の父だった。 厳密には父と言い切るわけにはいかない、あくまで父とおぼしきひと、だった。「あれがあなたのお父さんよ」と言い聞かされてきた相手、というのがじっさいのところであり、…

人生がときめく片づけの魔法

捨てる女 (朝日文庫) 作者:内澤旬子 朝日新聞出版 Amazon 気がついたら、部屋も暮らしもなにもかもが、カオスになってしまった。その理由を考えてみる。仕事も内容どころか種類すら選ばずに請けていたことも、大きい。けれども、やはりあれだ。本も物もなに…

relentless.com

ブックセラーズ・ダイアリー:スコットランド最大の古書店の一年 作者:ショーン・バイセル 白水社 Amazon 〔ジョージ・〕オーウェルが本屋になることをためらった気持ちはよくわかる。テレビドラマ「ブラック・ブックス」でディラン・モーランが見事に演じて…

自分だけの部屋

本で床は抜けるのか (中公文庫) 作者:西牟田 靖 中央公論新社 Amazon 本はかさばる。その上に重い。だからこそたくさんの本を持っている人は、頭をかかえる。部屋の広さや床の強さと本の大きさや重さとの間で、どうやってバランスをとるか日夜苦慮することに…

Question mal posee

幻のアフリカ納豆を追え!―そして現れた〈サピエンス納豆〉― 作者:高野秀行 新潮社 Amazon 私の人生の裏で糸を引く怪しいやつがいる。それは納豆だ。 納豆の恐ろしい魔の手に私が気づいたのは、大学を卒業し、東南アジア方面へ行くようになってからだ。タイ…

最後のニュース

筑紫哲也『NEWS23』とその時代 作者:金平 茂紀 講談社 Amazon 筑紫哲也さんについて書く。と言っても、これは筑紫哲也さんの評伝ではない。第一、僕は73年余に及ぶ氏の生涯のほんの一部しか関わっていない。評伝を記すことなどとても僕の任ではない。けれど…

僕が僕であるために

N/A (文春e-book) 作者:年森 瑛 文藝春秋 Amazon 藁半紙が光って見えたのは十三年の人生で初めてだった。 エアコンが壊れたので教室の窓が開け放されていて、制汗剤と、シャンプーと、洗っていない上履きと、手の甲についた唾液の乾いた匂いが攪拌されていた…

韓国を降りる若者たち

もう死んでいる十二人の女たちと (エクス・リブリス) 作者:パク・ソルメ 白水社 Amazon ある者にとってのそれは、まだ誕生すらしていない時代に出身地で起きた、1980年光州事件だった(「じゃあ、何を歌うんだ」)。 またある者にとってのそれは、3.11のよう…

人形の夢と目覚め

戦争とバスタオル 作者:安田浩一,金井真紀 亜紀書房 Amazon 安田浩一さんと「銭湯友だち」になったのは、数年前のこと。ときどき待ち合わせて銭湯に行き、湯上がりにビールを飲む。つねに反差別の現場を奔走している安田さんと飲めば、どうしてもそういう話…

君の名は

犬神家の戸籍 作者:遠藤 正敬 青土社 Amazon 『犬神家の一族』は、日本における探偵小説の代表作の一つとして人口に膾炙した作品であるといってよい。にもかかわらず、その内容についてはどこまで明快に理解されているのか?という疑問が頭をもたげる。 それ…

Angel of the Morning

イントゥ・ザ・プラネット 作者:ジル・ハイナース 新潮社 Amazon これまで一度も想像したことのない場所、どんな女性も冒険したことがない、海中深い場所にある洞窟への旅に、居心地の悪い恐怖とのランデブーに、あなたを連れて行こう。閉ざされた空間への恐…

サケビバ!

お酒の経済学-日本酒のグローバル化からサワーの躍進まで (中公新書) 作者:都留 康 中央公論新社 Amazon 本書は、「日本の酒類の生産から消費まで」を、経済学と経営学の視点から平易に解説する。新聞やビジネス誌での個別的・断片的情報は多いが、日本のそ…

マックスビューティ

パパイヤ・ママイヤ 作者:乗代雄介 小学館 Amazon これが、わたしたちの初めての出会い。17歳の夏の始まり。 それから起きたことに比べたら、どんなきっかけだったかも忘れてしまったSNSでのやりとりなんて、何の意味もないように思えた。わたしたちは特別に…

空から日本を見てみよう

画聖 雪舟の素顔 天橋立図に隠された謎 (朝日新書) 作者:島尾 新 朝日新聞出版 Amazon 「あまりに完璧すぎるんじゃないか?」という素朴な疑問が、雪舟の人生を調べ始めたきっかけだった。たとえば新聞の特集記事に見られる次のような語り口。 「日本水墨画…

さらばベルリン

ベルリンは晴れているか (ちくま文庫) 作者:深緑野分 筑摩書房 Amazon そこは1945年7月のベルリン、主人公の「私」ことアウグステ・ニッケルはアメリカ占領軍の食堂に職を得て、日々身を粉にして働いている。 「これまでドイツ人――というよりベルリン人は、…

星空のパスポート

ジャップ・ン・ロール・ヒーロー 作者:鴻池留衣 新潮社 Amazon 実存という戯言が実効性を喪失して、他者というコンテンツがイリュージョンに過ぎぬことが暴かれたが故の必然とでも説明されるべきなのだろうか、最近やたらとキルゴア・トラウト的、デレク・ハ…

地球の歩き方

食べるぞ!世界の地元メシ (講談社文庫) 作者:岡崎 大五 講談社 Amazon 世界を旅するようになってから、もう37年も経つ。 20代の頃はバックパッカーをしつつ、各地で働き、30代では海外専門の添乗員となり、作家デビューしてからは、取材や執筆のために年に数…

ノマドランド

新橋パラダイス 駅前名物ビル残日録 作者:俊也, 村岡 文藝春秋 Amazon 新橋駅西口SL 広場に隣接するニュー新橋ビルへ初めて入ったのは、およそ15年前、釣具店が目的だった。東銀座にある出版社での打ち合わせの帰りに立ち寄りやすい店を検索し、見つかったの…

2018年の伊調馨

増補版 日本レスリングの物語 (岩波現代文庫 社会 326) 作者:柳澤 健 岩波書店 Amazon 今でこそスポーツの一種と位置づけられているが、本来、レスリングはスポーツとはまったく関係のない戦闘技術そのものであった。…… 戦闘能力を磨くためには、筋力トレー…

チェンジリング

かか (河出文庫) 作者:宇佐見りん 河出書房新社 Amazon 中学生ぐらいから、うーちゃんがネットで愚痴をつぶやく頻度はだんだん増えていきました。おまいもよおく把握していることでしょうが、かかがはっきょうし始めたかんです。…… はっきょうは「発狂」と書…

Driver's High

ドライブイン探訪 作者:橋本倫史 筑摩書房 Amazon ドライブインが花盛りとなったのは昭和、より具体的に言えば戦後の昭和だ。昭和57(1982)年生まれの僕は、昭和という時代に対してわずかな記憶しか残っていなくて、「平成」と書かれた紙が掲げられる瞬間を…

きんぎょ注意報!

金魚と日本人 (講談社学術文庫) 作者:鈴木 克美 講談社 Amazon 江戸の金魚にはもちろん、経済活動を左右するとか、文化向上に寄与したとかいえるような、社会的な存在価値があったわけではない。ただ、人の目を楽しませ、和ませるのに役立つだけの小さな存在…

時の流れに身をまかせ

私の家は山の向こう―テレサ・テン十年目の真実 作者:有田 芳生 文藝春秋 Amazon 「光栄です……」 わたしの眼を見つめたテレサは小さな声でつぶやいた。彼女の人生を中国や台湾の歴史とからめて書かせてほしいと伝えたときの返答だった。そして意外なことを口…

地方の王国

幼な子の聖戦 作者:木村 友祐 集英社 Amazon 「おれ」は青森県慈縁郷村の若手村会議員、そうはいっても何かしらの大志があって政治の道に入ったわけではない。東京でのフリーター生活の果て、辛うじて正社員の座にあり着いたものの、もとより日々には「絶望…

地獄八景亡者戯

いきどまり鉄道の旅 (河出文庫) 作者:北尾トロ 河出書房新社 Amazon 線路は続かないよ、どこまでも。 時刻表をつぶさに見れば、終着駅がどこともつながらない鉄道があちこちに発見できるはずだ。 諸般の事情によってそれ以上先へ延びることを許されず、レー…

もう戻れない

どうにもとまらない歌謡曲: 七〇年代のジェンダー (ちくま文庫 せ 14-1) 作者:舌津 智之 筑摩書房 Amazon 歌謡曲とは、おそらく、戦後の日本における最強の思想である。というのも、言語に関わるどんな文化を考えてみても、歌謡曲ほど広く深い浸透力をもつも…