2022-03-01から1ヶ月間の記事一覧

What a Wonderful World

ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある 作者:パリッコ スタンド・ブックス Amazon 僕は「酒場ライター」なる酔狂な肩書きで仕事をしています。なので、日本が本格的なコロナ禍に突入して以降、「仕事がなくなって大変じゃないですか?」と心配しても…

「似ていないが似ている」

フェルメールとそのライバルたち 絵画市場と画家の戦略 (角川学芸出版単行本) 作者:小林 頼子 KADOKAWA Amazon 最盛期の《手紙を書く女》と晩年の《ギターを弾く女》を比べ、確かめてみよう。…… 二作品から読み取れるこうした相違は、おそらく、その時期のオ…

水に流せない

水たまりで息をする (集英社文芸単行本) 作者:高瀬隼子 集英社 Amazon 「夫が風呂に入っていない。衣津実はバスタオルを見て、そのことに気付いた。昨日も一昨日もその前の日も、これがかかってなかったっけ? 芝生みたいな色のタオル」。 夫に尋ねてみると…

巌流島

最後の決闘裁判 (ハヤカワ文庫NF) 作者:エリック ジェイガー 早川書房 Amazon 1386年、クリスマス数日後の寒い朝、ふたりの騎士が命を賭しておこなう決闘を見物しようと、数千もの人々がパリのとある修道院の裏手に広がる敷地に詰め掛けていた。長方形の試合…

Savage Beauty

水墨画入門 (岩波新書) 作者:新, 島尾 岩波書店 Amazon 墨と筆そして水によって、白い画面にさまざまなものを浮かび上がらせる。墨にもいくつもの色調があり、水はそれにグラデーション(階調)や滲みを与え、筆は、よどみなく流麗な、また力強い線へと手の…

「そして毎日は続いてく」

むらさきのスカートの女 作者:今村 夏子 朝日新聞出版 Amazon うちの近所に「むらさきのスカートの女」と呼ばれている人がいる。いつもむらさき色のスカートを穿いているのでそう呼ばれているのだ。…… 例えば、アーケードの向こう側からむらさきのスカートの…

最後の晩餐

その午後、巨匠たちは、 作者:藤原無雨 河出書房新社 Amazon ある荒れ果てた漁村にサイトウを名乗るひとりの女が現れるところから物語ははじまる。 サイトウは歳を取らなかった。パンツスーツに淡い青のブラウスを着て、町の空き家に棲み着いた。それからず…

私たちのハァハァ

コンジュジ (集英社文芸単行本) 作者:木崎みつ子 集英社 Amazon せれながリアンに恋をしたのは、もう二十年も前のことだ。せれなは現在三十一歳、リアンは生きていれば六十二歳になる。 リアンのフルネームは、トーマス・リアン・ノートン、一九五一年生まれ…

海の向こうで戦争が始まる

ジニのパズル (講談社文庫) 作者:崔 実 講談社 Amazon 主人公の「私」はオレゴン在住の留学生。東京の朝鮮学校を追われ、ハワイにもなじめず、そうして流れ着いたハイ・スクールからもその無気力ゆえに放校寸前。 「私は、ウォールフラワーですらない。本当…

珊瑚と花と

【第165回芥川賞受賞作】彼岸花が咲く島 (文春e-book) 作者:李 琴峰 文藝春秋 Amazon そこは一面彼岸花が咲き乱れる〈島〉の岸辺、ひとりの少女が気を失って横たわる。彼女の言葉と〈島〉の言葉、「似ているが微妙に異なっている」。 片や彼女の「ひのもとこ…