2023-01-01から1年間の記事一覧

「わたしたちはここにいる」

わたしの香港 消滅の瀬戸際で 亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ 作者:カレン・チャン 亜紀書房 Amazon 本書は、1997年から2020年までの、多くの人たちが未来を信じていた時期の記録だ。各章では、個人的な話から入って香港のさまざまな面を描き、生き…

みんなが手話で話す学校

手話の学校と難聴のディレクター ――ETV特集「静かで、にぎやかな世界」制作日誌 (ちくま新書) 作者:長嶋 愛 筑摩書房 Amazon 2017年4月。私は、新学期の始まりを撮影するために、ある学校を訪れていた。…… 私が訪ねたのは、東京・品川区にある私立のろう学校…

つれないアマリッリ

庭のかたちが生まれるとき 庭園の詩学と庭師の知恵 作者:山内朋樹 フィルムアート社 Amazon まさに庭をつくっている現場をはじめから終わりまでフィールドワークすることで、職人たちとともに庭のかたちが生まれるときに立ち会い、記録しながら、庭について…

ストレイ・シープ

万引き依存症 作者:斉藤章佳 イースト・プレス Amazon はじめまして。精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳です。 東京・大田区にある大森榎本クリニックで、さまざまな依存症、特に加害行為を繰り返すタイプの依存症の臨床に長年携わっています。お店のも…

万引き家族

北関東「移民」アンダーグラウンド ベトナム人不法滞在者たちの青春と犯罪 (文春e-book) 作者:安田 峰俊 文藝春秋 Amazon 事件の主役は「ボドイ」……と呼ばれる若者たちだ。 ボドイの多くは、職場からドロップアウトして不法滞在・不法就労状態にあるベトナム…

HIGH&LOW

「民都」大阪対「帝都」東京 思想としての関西私鉄 (講談社学術文庫) 作者:原 武史 講談社 Amazon いうまでもなく、近代日本の鉄道は国鉄がすべてではなかった。…… なかでも大阪を中心として発達する関西私鉄は、昭和大礼が行われた当時には、すでに関西地域…

個人的な体験

青春とシリアルキラー (ホーム社) 作者:佐藤友哉 集英社 Amazon 四年前、僕はある小説を書いた。 それは自分が高校生の時に起きた猟奇殺人事件を元ネタにしたものだった。……それは本当に衝撃的な事件で、日本社会はあのとき確実に揺れた。 もちろん僕も。…… …

カンディード

庭仕事の真髄 作者:スー・スチュアート・スミス 築地書館 Amazon 存在そのものに関わる心の深いところで起こるプロセスが、庭をつくりその世話をすることの中に含まれているのではないかと、私は考えるようになった。では、庭づくりは私たちにどう影響するの…

侏儒の言葉

九月、東京の路上で 1923年関東大震災ジェノサイドの残響 作者:加藤 直樹 トランスビュー Amazon 1923年(大正12年)の関東大震災は、10万人以上の死者を出した大惨事だったが、これにさらに凄惨な相を与えたのが、「朝鮮人が放火している」「井戸に毒を投げ…

知られざる傑作

生きていく絵 ――アートが人を〈癒す〉とき (ちくま文庫 あ-66-1) 作者:荒井 裕樹 筑摩書房 Amazon 東京都八王子市。……登山客でにぎわう高尾山を見晴らす美山町の丘に、精神科病院「平川病院」(医療法人社団光生会)があります。この病院のなかに、キャンバ…

岸辺のアルバム

怪書探訪 作者:古書山 たかし 東洋経済新報社 Amazon いまや飛ぶ鳥を落とす勢いのPV数(ページビュー数=閲覧回数)を誇る「東洋経済オンライン」の編集長に就任したばかりの山田俊宏さんから、「へんな本、変わった本に関するコラムをオンラインに連載した…

言語が違えば、世界も違って見えるわけ

日本語を翻訳するということ - 失われるもの、残るもの (中公新書) 作者:牧野 成一 中央公論新社 Amazon 本書の目的は2つあります。1つは、どんなに優れた翻訳であっても原文(本書では日本語)の機微を別の言語(本書では英語)に移し替えられないものが何…

坑夫

荒野の古本屋 (小学館文庫 も 27-1) 作者:森岡 督行 小学館 Amazon 本書は、まもなく21世紀をむかえようとしていたころ、大学卒業後の1年間を、就職することなく、その日暮らしをおくっていたところから話がはじまります。…… 私が身を置いたのは、アルバイト…

真実の口

プロレタリア文学はものすごい (平凡社新書) 作者:荒俣 宏 平凡社 Amazon ふつう、プロレタリア文学を読む、ということは、真摯な態度で社会の裏面に追いやられた人々の暮らしを偲び、万人が自由と幸福に至る道を一緒に模索する心がまえで、聖典を拝するがご…

やめられない、とまらない

痴漢外来 ──性犯罪と闘う科学 (ちくま新書) 作者:原田隆之 筑摩書房 Amazon そもそも、わが国では犯罪者を「治療」するという考え自体が一般的ではない。犯罪者は罰するものであり、「治療」の対象ではないと長い間考えられてきている。…… しかし、そのよう…

Lucy in the Sky with Diamonds

直立二足歩行の人類史 人間を生き残らせた出来の悪い足 (文春e-book) 作者:ジェレミー・デシルヴァ 文藝春秋 Amazon 私は、人間の大きな脳、高度な文化や技術について考えた。人間はなぜ言葉を話すのだろう。子どもを育てるにはなぜ村が必要なのだろう。これ…

トポスの知

偶然の装丁家 (就職しないで生きるには) 作者:矢萩 多聞 晶文社 Amazon ぼくは絵を描けば、本もつくります。日本に暮らしていますが、インドにも家を借りています。 中学1年生から学校に行かなくなり、14歳の頃から1年のうち半分以上をインドで暮らし、日本…

レストランの厨房で絶望し、フードトラックで発狂した

NYの「食べる」を支える人々 作者:アイナ・イエロフ フィルムアート社 Amazon 私がこの本を書くきっかけになったのは、いかにも春を思わせる3月初旬のある爽やかな午後の、偶然の出会いでした。オープンしたてのベジタリアンレストランでランチをした帰り道…

他山の石

抵抗の新聞人 桐生悠々 (岩波現代文庫 社会 327) 作者:井出 孫六 岩波書店 Amazon 時は明治の世、「帝大法学部を出た“学士さま”の身をもって、望みさえすれば、三井・三菱であろうが日銀・大蔵省であろうが、あるいはまた裁判官・検事であろうが、精選された…

ハンガリー狂詩曲

あなたの燃える左手で 作者:朝比奈秋 河出書房新社 Amazon 1965年の小島信夫は、妻の米兵との不倫を契機に崩壊していく一家族に仮託して、ポスト戦後のアメリカ的なるものの浸潤に伴ってキャンセルされていく日本社会、あるいはその変化に対応できない男性原…

おかげさまで

ええじゃないか 民衆運動の系譜 (講談社学術文庫) 作者:西垣 晴次 講談社 Amazon 「ええじゃないか」は約300年にわたる長い間、民衆を支配してきた徳川幕府が、政権を京都の朝廷に奉還し、幕府最後の年となった慶応三(1867)年の夏ごろから翌年のはじめにか…

マネーの虎

不老不死ビジネス 神への挑戦 シリコンバレーの静かなる熱狂 作者:チップ・ウォルター 日経ナショナル ジオグラフィック Amazon 世界ではこれまでもすごいことが起こってきたが、死ほど手ごわい敵がいただろうか。数十億ドルの金が用意されていて、政界や経…

新しい日常

東京の古本屋 作者:橋本倫史 本の雑誌社 Amazon 古本屋と聞いて、どんな姿を思い浮かべるだろう。 一日のほとんどを帳場に腰掛けて過ごし、読書をしながら静かに客を待つ店主の姿だろうか。あるいは、立ち読みをする客がいればハタキをかけ、咳払いの一つで…

黄色い本

増補 本屋になりたい ――この島の本を売る (ちくま文庫) 作者:宇田 智子 筑摩書房 Amazon 古本屋の大変さは、自由さと裏表だ。必ず置かなければいけない本はなく、買い取りたくない本は断ってもいいし、本には好きな値段をつけられる。出版社や取次と交渉する…

仮面舞踏会

##NAME## 作者:児玉雨子 河出書房新社 Amazon 「せつなって、本当にせつな?」 「私」こと石田雪那はジュニアアイドル。事務所に入所する際に母が関係者に促されるまま、ひらがなで契約書に記したのが、「石田せつな」というその芸名だった。 「なん…

愛と沈黙

キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン: オセージ族連続怪死事件とFBIの誕生 (ハヤカワ文庫NF) 作者:デイヴィッド・グラン,David Grann 早川書房 Amazon 1921年5月24日、オセージ族が暮らすオクラホマ州の町グレーホースの住人、モリー・バークハートは、3人い…

時来たりなば

園芸家の一年 (平凡社ライブラリー) 作者:カレル チャペック 平凡社 Amazon 亡くなったわたしの母は、若いころ、よくカードで一人占いをしていたが、そんなときにはいつも、ひと山のカードに向かってささやいた――。 「何をわたしは踏んでいるか?」 その当時…

リバティアイランド

ユートピアとしての本屋:暗闇のなかの確かな場所 作者:関口 竜平 大月書店 Amazon これは本屋を始めてから気がついたことなのですが、どうも本屋はユートピア(を目指すこと)と同じ、ないしは似ている存在のようです。本屋には終わり、あるいは完成形とい…

死せる魂

ウクライナ・ダイアリー 不屈の民の記録 (角川書店単行本) 作者:古川 英治 KADOKAWA Amazon 2022年2月23日午後9時7分、長年のロシアの取材先であるXからメッセージが入った。 「おそらく今晩だ」 私はあわてて返信した。 ――全面侵攻か? 「そうだ。部分的な…

ストリートファイター

ゲーセン戦記 ミカド店長が見たアーケードゲームの半世紀 (中公新書ラクレ) 作者:池田稔 中央公論新社 Amazon たしかにゲームセンターは、時代の流れに逆行した旧世代の遺物だと思われがちだ。 コスパが悪い、最新ゲームがない、マニア向けの商売、空気が悪…