人生がときめく片づけの魔法

 

 気がついたら、部屋も暮らしもなにもかもが、カオスになってしまった。その理由を考えてみる。仕事も内容どころか種類すら選ばずに請けていたことも、大きい。けれども、やはりあれだ。本も物もなにもかも捨てられない体質そのものが、いけないのではなかろうか。しかも捨てられないだけではない。古着や骨董、がらくたやゴミまでを、買ったり拾ったりするのも大好きなのだ。……

 が、カタストロフは突然にやってきたのである。

 疲労が貧困を呼び、貧困が疲労を呼び、無理に無理が重なりダメループを為し、ストレスが積み重なった結果なのか、単なる偶然か、乳癌にかかってしまった。……

 不思議なもので、ホルモン治療を止めてからも、部屋のカオスはもちろん、ごちゃごちゃしたところ、風通しの悪い日陰、地下などにいると、発作とはいかないまでも、いやーな感じに襲われ、息苦しくなってしまった。そしてこれまでモノがなんにもないガラーンとした空間なんて、怖くて住めないと思っていたのに、一切の音が遮断された、ホテルの部屋のような、現実味のない空間が大好きになってしまった。

 モノはなけりゃないほどいいし、隠せるものなら全部隠してつるっぺたにしたい。したいったらしたいんじゃあっ!! さようなら、見せる収納、マータイさん

 マータイさんは、高度経済成長期もバブル期も、メディアに登場するずっと前から自分の心の中に棲み続け、mottainaiというあの呪文を唱えてあたしをずっと、支配してきたのである。けれども、さすがにもうお別れしたいと、身体がシャウトしている。

 

 あー、今年も来てしまった、『食べて、祈って、恋をして』枠、あるいは別名『「女子」の誕生』枠とか『Over the Sun』枠ともいう(当社基準)。一年に一度くらいはうっかりつまみたくなってしまう、でも二度は絶対無理、んなこと読む前から分かってんだろ、な情緒不安定な季節の変わり目の珍味系当たり屋枠、というか言い訳させて、今回は違う、分かってホイホイ突っ込んでいったわけじゃなくて、ついふらっと『本で床は抜けるのか』に勧められて、お片づけが絶賛マイブーム(?)なもので、うかつに手を出してみたら、まんまと混ぜるな危険トラップに引っかかってただけなんだって。

 だってしょうがなくない? とっちらかったパワーワードの乱れ打ちで、数ページめくる度に、そうだコーヒー飲もうとか、メールチェックしとことか、やべっ風呂掃除忘れてたとかって紛らわせないとやってられない、ワイドショー垂涎のゴミ屋敷文体なんてまだまだほんの序の口で、『捨てる女』というタイトルの本でまさかあなた、筆者と能町みね子が互いの女性器を見せ合いっこする地獄絵図を読まされるなんて罰ゲーム、誰が想像できます? 「すべての仕事は売春である」、いや、なってねえから、この描写を官能小説として嗜めるほど人としての修業が足りてないんです、ごめんなさい、せめて笑い転げるくらいしとくべきなんでしょうけど、もうね、別の何かを捨ててるこんなBBAの悪ふざけを押しつけられて発狂する私は果たしてミソジニー呼ばわりされなきゃいけないのか、とついこじらせて、その日はそれきりテキストを閉じてしまう、しょうがないよ、そうでもしないとコルチゾールがドバドバあふれちゃってなけなしのナチュラルキラー細胞が全滅しちゃうもん。さらにたたみかけるように、そらゴミといえばゴミだけどさ、よりにもよって311きっかけでトイレットペーパーを断捨離しちゃった他人様の排便事情を延々と浴びせられるとか、もちろんデトックスとかいう意識高い系オブラートにくるむなんてしゃらくさいこともして下さらずに、赤裸々というか、いや、もうちょっとマジ無理だし、つーか、さっきからウンコとマンコの話しかしてねーし。

 

 と、そんなカオスから一転、本書はやがて静寂で覆われる。

「この数年間、古本もイラスト原画もなにもかも、持ち続けていることが重荷で重荷で重荷で重荷で、放り出したくてしかたがなかったにもかかわらず、手放してみたら、すっきりしゃっきりどころか、ガックリしてしまったのだった。えーっ、なんでだ、自分」。

 別にこんなあからさまな独白に頼るまでもない、ラスト3分の1ほどだろうか、憑き物が落ちたように、引っかかりが見事に消える。スーっと読める、読めてしまう。

 嵐が過ぎたその後で、例えば『マカロニほうれん荘』最終回の、あのがらんどうの空室を見せられる感じに少なからず似て、そうして悲しく知らされる。

 人はモノでできているのだ、と。

「こんなにいっぱいの 君のぬけがら集めて/ムダなものに囲まれて 暮らすのも幸せ」(槇原敬之「もう恋なんてしない」よりの抜粋)なんじゃなくて、暮らすの「が」幸せなんだよ、ときめきなんだよ、くたばれこんまり。

 

 

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