2024-01-01から1年間の記事一覧

デカフェ

中井久夫 人と仕事 作者:最相葉月 みすず書房 Amazon 本書は、2017年から2019年にかけて、みすず書房より刊行された『中井久夫集』全11巻の解説をもとに、大幅に加筆修正をおこなったものである。中井の逝去にあたり、長年の担当編集者であった守山省吾氏よ…

黄金狂時代

カレー移民の謎 日本を制覇する「インネパ」 (集英社新書) 作者:室橋裕和 集英社 Amazon メニューを見れば、ランチはカレーとナンのセットで800円なり。マトンかチキンかシーフードか、10種類くらいから選べるようになっている。カレーを2つ付ければ950円だ…

このゴミは収集できません

アミナ (エクス・リブリス) 作者:賀淑芳 白水社 Amazon 「他人に捨てられたんじゃなく、私に捨てられたんだ」。 この短編集をめくっていく中で、序盤から妙に引っかかるモチーフがあった。 「壁」において主人公が暮らす住まいの裏路地は、「ぎょっとするほ…

Who Let the Dogs Out

アンビシャス 北海道にボールパークを創った男たち (文春e-book) 作者:鈴木 忠平 文藝春秋 Amazon 『ファイターズの今後を考える ~ファイターズがめざすゴールはどこか~』 タイトルはそのまま、前沢がここ数年抱えてきた葛藤を表していた。〔北海道日本ハ…

That’s Not Me

ペット・サウンズ (新潮文庫) 作者:ジム フジーリ 新潮社 Amazon 『ペット・サウンズ』が登場するまでは、ポップ・ミュージックというのはただ単にかっこよく愉しいものに――少なくとも僕の若い心にとってかっこよく愉しいものに――過ぎなかった。歌の中に何か…

ベルサイユのばら

ニジンスキーは銀橋で踊らない 作者:かげはら 史帆 河出書房新社 Amazon ――こんな人は、知らない。 舞台袖から現れた、ひとりのダンサー。(中略) 疑いようもなく、男の肉体だ。ほかの男性ダンサーよりも小柄だが、首は太く、身を反らすと喉ぼとけがくっき…

アメリカのデモクラシー

「米留組」と沖縄 米軍統治下のアメリカ留学 (集英社新書) 作者:山里 絹子 集英社 Amazon 1949年から、アメリカ陸軍省はアメリカ政府の軍事予算を用いて、沖縄の若者を対象にアメリカの大学で学ぶための奨学制度を実施した。……この留学制度は、1970年が最後…

エデュケーション

焼き芋とドーナツ 日米シスターフッド交流秘史 (角川書店単行本) 作者:湯澤 規子 KADOKAWA Amazon 本書では、日常、茶飯、女性をキーワードに据え、日常茶飯の様々な局面において、人びと、とりわけ女性たちが「生きる」ことについて、これまでどのように向…

合理的配慮

正体 (光文社文庫) 作者:染井 為人 光文社 Amazon テレビから女性キャスターの〈速報です〉との声が聞こえ、舞はトーストをもぐもぐ咀嚼しながら目をやった。 〈昨夜未明、兵庫県神戸市北区にある神戸拘置所に収監されていた少年死刑囚が脱走したことがわか…

王様のレストラン

独裁者の料理人:厨房から覗いた政権の舞台裏と食卓 作者:ヴィトルト・シャブウォフスキ 白水社 Amazon 私が考えはじめたのは、歴史の重要な瞬間に料理を作っていた人たちは歴史について何が言えるだろうということだ。世界の運命が動いたとき、鍋の中では何…

みんなのうた

フィリピンパブ嬢の経済学(新潮新書) フィリピンパブ嬢シリーズ 作者:中島弘象 新潮社 Amazon 「2015年10月、僕はフィリピン人女性のミカと結婚した。 ミカと出会ったのは2011年。当時大学院生だった僕は、フィリピンパブを研究しようと、調査の一環で訪れ…

アメリカの反知性主義

スヌーピーがいたアメリカ: 『ピーナッツ』で読みとく現代史 作者:ブレイク・スコット・ボール 慶應義塾大学出版会 Amazon チャーリー・ブラウンは立場を決めるとき、ひどく悩む。これぞこのキャラクターのいつものユーモアだ。そして、チャーリー・ブラウン…

忘れな草をもう一度

限界分譲地 繰り返される野放図な商法と開発秘話 (朝日新書) 作者:吉川 祐介 朝日新聞出版 Amazon 近年、メディアで「限界ニュータウン」という表現を見かける機会が多くなってきた。…… 一方で、その郊外型ニュータウンのさらに外側、農村部の間に忘れられた…

不適切にもほどがある!

キリストと性 西洋美術の想像力と多様性 (岩波新書) 作者:岡田 温司 岩波書店 Amazon キリスト教は性にたいして保守的で厳格だといわれる。その一方ではまた、宗派を問わず教会内部に性犯罪や性暴力がはびこってきたことも知られている。…… とはいえ、中世か…

海原の人魚

裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち 作者:上間 陽子 太田出版 Amazon 沖縄で、風俗業界で仕事をする女性たちの調査をはじめようと思ったのは2011年だった。 沖縄の風俗業界には、未成年のときから働き出した女性たちがいると伝え聞いていた。年若くして夜…

「  」

統合失調症がやってきた (幻冬舎こころの文庫) 作者:松本ハウス 幻冬舎 Amazon 5年生になった頃、塾の先生が家に電話をかけてきた。 「お母さん、潤君のノートをご覧になったことはありますか?」 なんのことだか理解できなかった母さんは、ぼくのノートを見…

アメリ

空芯手帳 (ちくま文庫) 作者:八木詠美 筑摩書房 Amazon 私が妊娠したのは4日前だった。 「あれ、まだカップあったのか」 部署の島に戻ってくるなり課長がつぶやいた。夕方の脂じみた空気に、煙草のにおいが加わる。 「いつのだっけ、あれ。ああ、午後一の来…

Don't Knock My Love

ドリフターズとその時代 (文春新書) 作者:笹山 敬輔 文藝春秋 Amazon 本書の目的は、日本の戦後史のなかにドリフを位置づけ、日本人にとってドリフとは何だったかを明らかにすることである。その際、一つの軸として演劇史の視点を導入したい。一般的に言えば…

魔太郎がくる!!

悪党 潜入300日 ドバイ・ガーシー一味 (講談社+α新書) 作者:伊藤喜之 講談社 Amazon 2022年、この男ほど物議を醸した人物はいなかったのではないか。 ガーシーこと、東谷義和――。 日本でバーやアパレル会社、芸能プロダクションなどを経営してきた51歳。…

チャーリーとチョコレート工場

ルポ歌舞伎町 作者:國友公司 彩図社 Amazon 「眠らない街」「東洋一の歓楽街」と呼ばれた歌舞伎町は、時代の波に呑まれ、何の変哲もないただの歓楽街へと成り下がったという――。 ネタを求めて歌舞伎町を飲み歩けば、「今の歌舞伎町はつまらない街になった」…

熱のあとに

ホス狂い ~歌舞伎町ネバーランドで女たちは今日も踊る~(小学館新書) 作者:宇都宮直子 小学館 Amazon 歌舞伎町に足を踏み入れたきっかけは、3年前の小さな事件にあった。2019年5月23日、マンションの一室でおきた「ホスト殺人未遂事件だ」。…… 高岡由佳(…

Leap of Faith

海のプール: 海辺にある「天然プール」を巡る旅 作者:清水 浩史 草思社 Amazon 自然の中で冷たい水に浸かると、一瞬にして心と身体が目覚める。それは原初的な本能、野生といった身体感覚が呼び覚まされるからだろう。水に浸かることは陸上とは異なり、「ほ…

万歳突撃

新版 女興行師 吉本せい: 浪花演藝史譚 (ちくま文庫 や 28-3) 作者:矢野 誠一 筑摩書房 Amazon 大阪の女興行師で、こんにちの吉本興業の基礎をつくった吉本せいの生涯は、山崎豊子氏が『花のれん』なる小説に仕立ててからというもの、数々の舞台化、テレビド…

さよならプラスティックワールド

狭間の者たちへ 作者:中西智佐乃 新潮社 Amazon 「元気が欲しい」。 職場の保険代理店でも風采は上がらない、自宅に帰っても乳飲み子を抱えた妻に責め苛まれる、これといった趣味があるでもなければ、そうした愚痴をこぼせる友人のひとりもいない、体質的に…

動物農場

皮革とブランド 変化するファッション倫理 (岩波新書) 作者:西村 祐子 岩波書店 Amazon ファッションやブランドと「倫理」がどう結びついているのか。なぜ皮革と高級ファッションブランドは抜きがたい関係にあるのか。そしてその関係に21世紀の倫理がどう反…

翼をください

動物翻訳家 心の声をキャッチする、飼育員のリアルストーリー 作者:片野 ゆか 集英社 Amazon 楽しい、嬉しい、気分がいい――。 動物たちがそう感じる環境をつくるためには、彼らの気持ちや本音を理解しなければなりません。もちろん言葉で伝えてくれるわけで…

アメリカズ・ゴット・タレント

進駐軍を笑わせろ!: 米軍慰問の演芸史 作者:青木 深 平凡社 Amazon 「進駐軍慰問」のショー。 こう聞くと、どんな「ショー」が思い浮かぶだろうか。(中略) そのなかで脚光を浴びたのが、しゃべりも物語も必須とせず、体と道具を駆使したパフォーマンスで客…

野心のすすめ

匿名作家は二人もいらない (ハヤカワ・ミステリ文庫 ア 22-1) 作者:アレキサンドラ アンドリューズ 早川書房 Amazon 主人公フローレンス・ダロウは、フロリダの片田舎ポート・オレンジ出身の編集アシスタント。曲がりなりにも大卒の彼女が、低賃金かつ明日を…

哀愁波止場

裏横浜 ──グレーな世界とその痕跡 (ちくま新書) 作者:八木澤高明 筑摩書房 Amazon 幼い頃から、神奈川県民というよりは、横浜市民という意識が強かったと思う。 小学校の頃から通った横浜スタジアム、そこでプレイする大洋ホエールズの選手たちに憧れた。実…

むかしむかしあるところに

活劇映画と家族 (講談社現代新書) 作者:筒井康隆 講談社 Amazon 「悪」はしばしば魅力的に語られる。これが問題とされるのは映画で魅力的に描かれた悪が、観客に、特に未成年者に悪い影響を与えると一般に言われているからだが、この本では逆に、だからこそ…