2022-10-01から1ヶ月間の記事一覧

午後の死

日はまた昇る (新潮文庫) 作者:ヘミングウェイ 新潮社 Amazon 「ねえ、ジェイク」彼はカウンターの上に身を乗りだした。「きみは、人生がどんどん過ぎ去ろうとしているのに、その人生をすこしもうまく使っていないと感じることはないかね? もう人生の半分ち…

Love Lockdown

歴史の証人 ホテル・リッツ 生と死、そして裏切り (創元ライブラリ) 作者:ティラー・J・マッツェオ 東京創元社 Amazon もはやすべて過去だ。しかし、多くの人間は過去を置き去りにできない。しかも、ある重要な点で、これは現在の物語でもある。わたしたちは…

一人称単数

お菓子とビール (岩波文庫) 作者:モーム 岩波書店 Amazon 作家である「僕」ことウィリー・アシェンデンのところに旧友のロイから一本の電話が届く。ランチを共にしたい、との旨。さて用件は何だろう、としばし推察をめぐらせる。 会員制クラブのがらんとした…

Back in Black

ドナーで生まれた子どもたち 「精子・卵子・受精卵」売買の汚れた真実 作者:サラ・ディングル 日経ナショナル ジオグラフィック Amazon 私は精神科医ではないけれど、今なら分かる。人は自分がDC[donor conception]だと知ったとき、皆いくつか同じ感情の段…

死と乙女

京都に女王と呼ばれた作家がいた 山村美紗とふたりの男 (幻冬舎文庫 は 22-6) 作者:花房 観音 幻冬舎 Amazon 私と山村美紗とでは、本の売り上げ、知名度、華やかさ、何もかも違いすぎる。けれど、美紗について調べて、何よりも印象に残ったのは、彼女の「自…

フレンチドレッシング

乳と卵 作者:川上未映子 文藝春秋 Amazon 巻子はわたしの姉であり緑子は巻子の娘であるから、緑子はわたしの姪であって、叔母であるわたしは未婚であり、そして緑子の父親である男と巻子は今から十年も前に別れているために、緑子は物心ついてから自分の父親…

らくだ

師匠、御乱心! (小学館文庫) 作者:三遊亭円丈 小学館 Amazon これは今から40年以上前の昭和53(1978)年5月に当時の落語協会前会長だった三遊亭円生が、古今亭志ん朝、三遊亭円楽、立川談志の若手幹部を連れて新団体「三遊協会」の設立を図り、なんと落語協…

ブレックファスト・クラブ

読書会という幸福 (岩波新書) 作者:向井 和美 岩波書店 Amazon 本は自分の人生を映しだす鏡でもある。だからこそ、かつて本を現実逃避の手段にしていたわたしは、読書会という場を与えられたことで、本をとおして人とつながり、メンバーたちと30年近くにわた…

PLUTO

ロバート・オッペンハイマー ――愚者としての科学者 (ちくま学芸文庫) 作者:藤永 茂 筑摩書房 Amazon 私がロバート・オッペンハイマーに関心を持ってから20年はたつ。オッペンハイマーの名は科学者の社会的責任が問われる時にはほとんど必ず引き合いに出され…

地獄の季節

旅立つには最高の日 作者:田中 真知 三省堂 Amazon 旅は出会いであるといわれる。だが、出会ったものとはかならず別れなくてはならない。この本では、どちらかというと、旅を通じたさまざまな別れをあつかったものが多くなった。 別れたものは、いきなりいな…

明日に向って撃て!

アメリカのありふれた町で 作者:東理夫 天夢人 Amazon なぜぼくは「アメリカ」を書くのか、と時どき自問する。簡単に言えば、この国が好きであり、面白くてたまらないからだ。面白いというのは、アメリカという国が、世界のどこの国とも異なった成り立ちを持…