2023-09-01から1ヶ月間の記事一覧

誰がために教誨師はいる

教誨師 (講談社文庫) 作者:堀川惠子 講談社 Amazon 拘置所という施設は、被告人が裁判の判決が確定するまでの間に拘留される場所だ。ほとんどの者は実刑判決確定後、すぐに刑務所へと送られる。しかし、「死刑」判決を受けた者だけは処遇が異なる。彼らは死…

三文芝居

ルビンの壺が割れた(新潮文庫) 作者:宿野かほる 新潮社 Amazon 突然のメッセージで驚かれたことと思います。失礼をお許しください。 仕事終わりに、いつものように何気なくフェイスブックの歌舞伎のページを覗いていると、未帆子という名前を目にしました…

ごちそうさまが、ききたくて。

オールド台湾食卓記 ――祖母・母・私の行きつけの店 (単行本) 作者:洪 愛珠 筑摩書房 Amazon 台湾は若いと同時に、歴史が豊かに層をなした島でもあります。衝突でできた傷もあれば、融合が生んだ美しさもあります。本書を執筆した当初の動機は、母の死去をき…

コロナの時代の僕ら

ヴァクサーズ――オックスフォード・アストラゼネカワクチン開発奮闘記 みすず書房 Amazon これは、ある競争にまつわる物語だ。もっともそれは、よく描かれがちな、他のワクチンを開発する他の開発者との競争ではない。……これは、恐るべきウイルス、すなわち、…

なんとなく、クリスタル

ブックオフから考える 「なんとなく」から生まれた文化のインフラ 作者:谷頭和希 青弓社 Amazon ブックオフの社会的・文化的意義とはどこにあるのか――。 これが、本書に課されたミッションです。 そして、それを解く鍵が、ブックオフが持つ「なんとなく性」…

将来之日本

新装版 苦海浄土 (講談社文庫) 作者:石牟礼 道子 講談社 Amazon 突然、戚夫人の姿を、あの、古代中国の呂太后の、戚夫人につくした所業の経緯を、私は想い出した。手足を斬りおとし、眼球をくりぬき、耳をそぎとり、オシになる薬を飲ませ、人間豚と名付けて…

射精責任

燕は戻ってこない (集英社文芸単行本) 作者:桐野夏生 集英社 Amazon 上京しても何のいいこともなく、むしろ、どんどん悪くなってゆくのはなぜだろう。故郷に帰っても仕事がないし、東京に出る時に父親とは大喧嘩したから、意地でも帰りたくない。てか、その…

レガシーワールド

世界金玉考 作者:西川 清史 左右社 Amazon キンタマとがっぷり四つに組んで一冊の本を書いたら、いったいどういうものができあがるのか、皆目見当がつかなかった。ただ、これまでお目にかかったことのないような面白い本になる予感だけはあった。類書はない…

スーパーキノコ

きのこのなぐさめ 作者:ロン・リット・ウーン みすず書房 Amazon この本のタイトルは当初、『きのこの発見』にするはずだった。人類学者である私のきのこの世界への旅と、旅の途中で出会ったきのことその愛好家への驚嘆を綴った本に。目の前が真っ暗だったの…

サバービアの憂鬱

国道16号線: 「日本」を創った道 作者:柳瀬 博一 新潮社 Amazon 日本の歴史の中心には、有史以来現代に到るまで、1本の道が走っている。 「国道16号線」だ。 東京の中心部からほぼ30キロ外側、東京湾をふちどるようにぐるりと回る、実延長326.2キロの環状道…