サケビバ!

 

 本書は、「日本の酒類の生産から消費まで」を、経済学と経営学の視点から平易に解説する。新聞やビジネス誌での個別的・断片的情報は多いが、日本のそれぞれの酒類の動向と特徴を、経済学・経営学のロジックできちんと解説した類書はない。……

 日本の酒類は、国内においては低迷にあえいでいる。しかし、その低迷の中でも再生への胎動が見られる。ひとつは、製品差別化により国内需要を回復させている高級な日本酒やウイスキーの動きである。もうひとつは、輸出の急増である。これは、日本酒、ビール、ウイスキーに当てはまる。うまく軌道に乗るかは、メイド・イン・ジャパンの高品質ブランドを維持できるかどうかにかかっている。国内での消費低迷を海外輸出と国内での新たな需要創出で補おうという方向は、日本の多くの産業に共通するものだろう。その意味でも、身近な酒類について経済学・経営学の視点から考える意義は大きい。

 

 本書に現れるのは、今さら聞けない現代経済・経営用語の数々。

「組織能力」、「戦略的ポジショニング」、「補完材」、「代替材」――

 検索してみたところで、どうせMBAホルダーとやらのこまっしゃくれた講釈でも読まされて煙に巻かれるのが関の山、ぶん殴りたいストレスでついアルコールに手が伸びてしまうまでがお約束。

 だったら、こよなく愛するお酒そのものを具体例にとってお勉強してしまえばいいじゃない、というのが本書の趣旨――筆者や編集がそう考えたかは知らないけれど、一読者としては『もしドラ』の酒類市場バージョンと断言しても差し支えないように思える。

 

差別化戦略」とか言われても実のところ、ピンと来ない。でも、これを日本酒「獺祭」の旭酒造を例にとって、ケース・スタディしてみる。

 瀕死状態だった社を立て直すべくまず打ち出したのは、「普通酒造りをやめて純米大吟醸だけに特化したこと」、そして従来のように「杜氏の勘とコツに頼らないために、醸造工程を数値管理する方式を編み出し」、冬季限定の出稼ぎ雇用が主流の杜氏ではなく、正社員による通年での酒造りを可能にした。さらには、独自のグローバリゼーションにも成功した。つまり、「卸や商社に頼らず、多くの日本人が競合する試飲会などを避けて、ニューヨークやパリの飲食店への飛び込み営業を繰り返し」、そして例えばジョエル・ロビュションのお墨付きを得るに至る。

 これを用語で改めて言い換える。「価格プレミアムを払ってもよいという消費者の存在を前提にして、市場のニッチ(精米歩合23%純米大吟醸)に焦点を絞り、イメージや評判(ニューヨークとパリの高級レストランでの評価)により製品を差別化している。この模倣は簡単ではないため、旭酒造は、容易には競争優位を失わない構図を作り出している」。

 

 こういうの、酒がまずくなるんだよね、っていう人はやめとけば、って感じの一冊。

 そうして人々は今日も、何もかもに麻痺する感覚欲しさに、ブランディングもクソもないストロングを煽り続ける。

 

 

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