ストリートファイター

 

 たしかにゲームセンターは、時代の流れに逆行した旧世代の遺物だと思われがちだ。

 コスパが悪い、最新ゲームがない、マニア向けの商売、空気が悪い……かつてのアーケードゲームのファンも離れ、もはや風前の灯。データを見れば、全国のゲームセンターは1989年の約22000店が、2019年には約4000店にまで減っている。

 しかしそれは表面的なことだ。

 実は2010年代に大手メーカーは拡大したゲームセンターの淘汰と整理を進め、15年以降は店舗あたりの収入は増加傾向に転じていた。もちろん、それは大手の話で、個人経営のゲームセンターの状況とは話が別だ。けれど、「ゲームセンター」という場そのものは求められている。(中略)

 本書には、昔ながらの個人経営ゲームセンターがスタッフやファンの皆さんとともに、どうやって危機を切り抜け、ない知恵を振り絞り、生き延びてきたのかが書いてある。と、同時にこれは、人生のほとんどを、ゲームセンターとともに生きてきた僕から見た「ゲーセンの歴史」でもある。

 

 筆者が経営するミカドの主力は、もはやレトロと呼ばれるべき域に入った古いゲームがほとんどだという。そこには、単にあえて旧式の製品で差別化を図るというにとどまらない、構造的に極めて深刻な理由がある。

 最新式のゲームには漏れなくネットワーク対応のシステムが取り入れられている。ここにはもちろん、バグの修復の簡略化やリモート対戦の促進といったゲームセンターの側から見たインセンティヴもある。しかし最大の難点は、売上の少なからぬパーセンテージが漏れなくメーカーサイドに吸い上げられていくということにある。旧式のオフラインのビデオゲームならば、当然に各種コストは差し引いたうえでの話にはなるが、仕入れ原価を回収できさえすればそこから先はプレイに応じて店舗サイドのマージンとしてチャリンチャリンと儲けが出てくる、これがゲーセンというカルチャーを成り立たせていたビジネスモデルだった。ところが現行のシステムでは課金がメーカーに吸い取られ続ける、そうして利鞘が縮小するばかりか、オンラインを維持するためのコストまですべてゲーセンが負担しなければならない。それにもかかわらず、「100円だった缶ジュースが140円くらいになっているのに、ゲーセンでは相変わらずワンプレイ50円や100円」と来ている。

 メーカーサイドにしても、既にジレンマに陥って久しい。一方では「ハードの高性能化によって開発費が上がっ」っているのに、他方では「ゲームセンターが減り、販売と売上が下がっ」ているというのだから。むしろこの状況で、新作に今なお多少なりともリソースが注ぎ込まれていることの方が奇異とすら映ってならない。

 いずれにせよ、こうして「開発する会社、導入したゲームセンター、遊ぶプレイヤー、誰ひとりとして得をしない」現状は固められていった。

 

 この無理ゲーな環境下で曲がりなりにも今日まで経営を続けてこられたのは、紛れもなくアップデートの賜物だった、もっともそれはハードではなく、人をめぐっての。

 分けても転機となったのは、YouTubeへの進出だった。筆者は「最初、配信には懐疑的だった。ゲーセンに客を呼ぶのに動画を無料で見せるなんて、わけがわからない。むしろお客さんが来なくなると思っていた。それでも一応試しにやってみると、視聴数やチャンネル登録者数の増加に比例して、お店に来るお客さんも増えた」。

 それはたぶん、今となってはレアとなった珍品筐体がここでならばプレイできると周知されたことに由来する現象ではない。「他の職種とちがい、個性的なゲームセンター店員は自分たちのお客を持っている」という「1980年代から変わらない」ファン消費のこの性質が、動画を介してオンタイムにアップデートされたことにおそらくは起因している。

 この取り組みが、後に思わぬかたちで実を結ぶ。コロナの襲撃により存続の危機に瀕した店が働きかけた窮余の一策としてのクラウドファンディングで、なんと総勢3872人から37328892円を調達することに成功する。翌年の再度の呼びかけにおいても、1500万余りが集められた。まさかこの投げ銭のすべてが、リアル店舗の常連層によるものとは考え難い。

 ネットによって先細りを余儀なくされたゲーセンが、ネットによって救われた。たとえそれが一時しのぎの延命策に過ぎぬとしても。

 世の中、何がどうつながっているのかなんて、分からない。

 

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