2021-01-01から1年間の記事一覧

美味礼賛

食の実験場アメリカ-ファーストフード帝国のゆくえ (中公新書) 作者:鈴木 透 中央公論新社 Amazon そもそも食べ物は、人間の身体を形作る存在であり、生命の安全に関わっている。つまり、何をどう口にするかは、一見すると極めて個人的な選択のように見える…

ダ・ヴィンチ・コード

最後のダ・ヴィンチの真実 510億円の「傑作」に群がった欲望 作者:ベン・ルイス,上杉 隼人 集英社インターナショナル Amazon 『サルバドール・ムンディ』がわれわれに伝えるのは、美術界はすべてよしというわけではないということだ。世界一有名な画家の、も…

「死の恐怖」

感染症文学論序説: 文豪たちはいかに書いたか 作者:石井正己 河出書房新社 Amazon 集めた感染症文学を読むと、感染拡大の時期を当事者として生きた感覚や思考が実に細やかに書かれていることに驚いた。今はビッグデータがAI(人工知能)によって解析され、金…

野中広務研究―その金脈と人脈

野中広務 差別と権力 (講談社文庫) 作者:魚住 昭 講談社 Amazon 野中ほどナゾと矛盾に満ちた政治家はいない。彼には親譲りの資産も学歴もない。そのうえ57歳という、会社員なら定年間近の年で代議士になりながら、驚くべきスピードで政界の頂点に駆け上って…

愛の讃歌

雪ぐ人: 「冤罪弁護士」今村核の挑戦 (新潮文庫 さ 94-1) 作者:佐々木 健一 新潮社 Amazon 私たちは「冤罪弁護」の現実を知らない。 多くの人は、冤罪事件を担当するような“人権派弁護士”は、貧しくとも崇高な理念の下、自ら進んでその道を歩んでいるものと…

ソウルフード

給食の歴史 (岩波新書) 作者:藤原 辰史 岩波書店 Amazon 日本の給食史を漫然と眺めているだけでは、中途半端な概説史に堕してしまう。それを避けるためにも、とくに下記の5つの視角から給食史をとらえたい。 第一に、子供の貧困対策という視角。/……給食はそ…

どこまでも行こう

テレビ越しの東京史 ―戦後首都の遠視法― 作者:松山秀明 青土社 Amazon 戦後東京は、テレビを抜きに語ることはできない。首都の発展は、テレビというメディアの歴史と共鳴していたと言っても過言ではない。戦後東京は、テレビという新しい視聴覚メディアの登…

時代おくれ

トキワ荘の時代 (ちくま文庫) 作者:純, 梶井 筑摩書房 Amazon 寺田ヒロオの代表的な作品といえば、「背番号0」「スポーツマン佐助」「もうれつ先生」「スポーツマン金太郎」「暗闇五段」などがあげられるが、これらはいずれも1956年~64年にかけての8年間に…

And when you get the chance

ヤクザときどきピアノ 作者:鈴木 智彦 CCCメディアハウス Amazon 仕事が終わったばかりでやることもない。(中略)何の気なしに映画を観にいった。(中略) そのうちの一本が『マンマ・ミーア!ヒア・ウィー・ゴー』だった。第一作同様、全編ABBAのヒット…

飢餓海峡

優しい暴力の時代 作者:チョン・イヒョン 河出書房新社 Amazon 「十二階の入居者の便器の詰まりを直し、二十九階の入居者の代行で銀行に行き、八階の入居者と三十二階の入居者の駐車場に関するもめごとを仲裁して、あわただしく一日が過ぎた」(「ミス・チョ…

借金大王

サラ金の歴史-消費者金融と日本社会 (中公新書 2634) 作者:小島 庸平 中央公論新社 Amazon かつて、サラ金各社は、毎年のように法人所得ランキングの上位に食い込み、創業者一族が高額納税者番付に数多く名を連ねていた。その一方で、利用者はしばしば深刻な…

トリコロール

冗談音楽の怪人・三木鶏郎 :ラジオとCMソングの戦後史 (新潮選書) 作者:麻人, 泉 新潮社 Amazon 三木鶏郎と聞いて、それなりのイメージが思い浮かぶのは、もはや60代に入った僕くらいの世代がぎりぎりかもしれない。しかし、この人物は戦後の娯楽メディアを…

妖怪ウォッチ

地方選 無風王国の「変人」を追う 作者:常井 健一 KADOKAWA Amazon 誰にも注目されないどころか、行われたことすら知られていないマイナーな地方選の現場を1人で自由に見て歩き、住民からの聞き取りや資料の発掘を通して日本政治の奥の奥、そこに映る「にん…

Santa Claus Is Coming To Town

資本主義と闘った男 宇沢弘文と経済学の世界 作者:佐々木実 発売日: 2019/03/29 メディア: Kindle版 前に私は、宇沢が「経済学の『奥の院』にいた唯一の日本人だった」とのべた。その意味は、経済学者として顕著な実績を挙げたというだけでなく、1950年代後…

もう恋なんてしない

オリーヴ・キタリッジ、ふたたび 作者:ストラウト,エリザベス 発売日: 2020/12/17 メディア: ハードカバー オリーヴは「年を取るとね」と言い出した。「人からは見えない存在になる。そういうものなのよ。ただ、それだけに解放感があるとも言える」。 前作『…

人のセックスを笑うな

村に火をつけ,白痴になれ 伊藤野枝伝 (岩波現代文庫) 作者:栗原 康 発売日: 2020/01/18 メディア: 文庫 女性の地位向上をもとめる人たちだって、そういう約束をおもんじている。よりよい社会を想定し、それにちかづくこと。いま男とかわしている約束は不平…

狂人と狂人

辞書になった男 ケンボー先生と山田先生 (文春文庫) 作者:佐々木健一 発売日: 2016/08/19 メディア: Kindle版 これは、日本を代表する二冊の辞書の誕生と進化を巡る、二人の男の情熱と相克の物語である。 一人は『新明解国語辞典』の生みの親、山田忠雄。 そ…

誰がために医師はいる

鼓動が止まるとき 作者:スティーヴン・ウェスタビー 発売日: 2018/12/04 メディア: 単行本 ウッディ・アレンは「脳は二番目に好きな臓器だ」と言った。私は心臓に同じ愛着を感じている。まず、見ていて楽しい。そして、私は、それを眺め、停止させ、治して、…

Red Is the Old Black

赤毛の文化史:マグダラのマリア、赤毛のアンからカンバーバッチまで 作者:ジャッキー・コリス・ハーヴィー 発売日: 2021/03/03 メディア: 単行本 赤毛は昔から“異分子”と見られてきたが、興味深くも不可思議なことに、それは白い肌をした異分子なのである。……

「壮大なお芝居」

幣原喜重郎-国際協調の外政家から占領期の首相へ (中公新書 2638) 作者:熊本 史雄 発売日: 2021/04/19 メディア: 新書 幣原喜重郎は、評価の相半ばする外交官・政治家ではなかろうか。「協調外交」の推進者だったのか、「弱腰外交」を展開したに過ぎなかった…

「柔弱は生路なり、強硬は死路なり」

日本国憲法をつくった男 宰相 幣原喜重郎 (朝日文庫) 作者:塩田 潮 発売日: 2017/02/28 メディア: Kindle版 新憲法制定の経緯については、当初から大きな謎がある。最大の疑問は第9条の戦争放棄条項が設けられた事情だろう。 ダグラス・マッカーサー最高司令…

1Q95

U 相模原に現れた世界の憂鬱な断面 (講談社現代新書) 作者:森達也 発売日: 2020/12/16 メディア: Kindle版 被害と加害に対する社会の眼差しはオウム事件によって大きく転回し、高揚した被害者意識はその後の刑事裁判に影響を与えただけではなく、北朝鮮によ…

民族の祭典

オリンピック秘史: 120年の覇権と利権 作者:ジュールズ ボイコフ 発売日: 2018/01/24 メディア: 単行本 IOCのトーマス・バッハ会長は2015年4月に国連で演説し、オリンピック・ムーブメントと政治の関係について語った。「普遍的なスポーツの法」を引き合いに…

軍艦マーチ

東京のヤミ市 (講談社学術文庫) 作者:松平 誠 発売日: 2019/10/12 メディア: 文庫 闇(ヤミ)とは、公定(マルコウ)の対語である。統制経済の時代には、政府の手で主な消費物資にいちいち価格がつけられ、違反すると処罰された。だから、マルコウ以外の商品…

青の時代

BAD BLOOD シリコンバレー最大の捏造スキャンダル 全真相 (集英社学芸単行本) 作者:ジョン・キャリールー 発売日: 2021/02/26 メディア: Kindle版 セラノスはたった今、製薬会社向けの初めての大掛かりな実演をやり遂げたところだ。セラノスの22歳の…

ブルックリン

孤独なボウリング―米国コミュニティの崩壊と再生 作者:ロバート・D. パットナム 発売日: 2006/04/01 メディア: 単行本 20世紀の終焉にあたり、市民的な不調感が米国人一般に共有されていた。経済の見通しはまず満足のいくものであり、それは空前の期間にわた…

ダンシング・ヒーロー

盆踊りの戦後史 ――「ふるさと」の喪失と創造 (筑摩選書) 作者:始, 大石 発売日: 2020/12/17 メディア: 単行本(ソフトカバー) 本書で軸足を置くのは、戦後以降の盆踊りの変遷である。盆踊りは戦後、社会の移り変わりと共に変容を重ねてきた。伝統的なもので…

「さあ意味はわからへんけど」

土葬の村 (講談社現代新書) 作者:高橋繁行 発売日: 2021/02/17 メディア: Kindle版 この本はおそらく、現存する最後といっていい土葬の村の記録である。…… 統計の数字を見ても、このころ土葬が急速になくなっていることが窺える。2005年の時点で、日本の火葬…

A Treatise of Human Nature

西洋音楽の正体 調と和声の不思議を探る (講談社選書メチエ) 作者:伊藤友計 発売日: 2021/02/10 メディア: Kindle版 「西洋音楽史において、もっとも重要な作曲家は誰か?」。…… 以下では一つの試みとして、16世紀末から17世紀初頭に活躍したクラウディオ・…

Bridge Over Troubled Water

カラー版-ラファエロ―ルネサンスの天才芸術家 (中公新書) 作者:深田 麻里亜 発売日: 2020/10/20 メディア: 新書 ラファエロ・サンツィオ(1483~1520年)は、レオナルド・ダ・ヴィンチとミケランジェロに並ぶ、ルネサンス三大巨匠の一人であり、西洋美術に親…