2022-01-01から1年間の記事一覧

さよならテレビ

沖縄と核 作者:松岡 哲平 新潮社 Amazon 沖縄には、かつてどのような核兵器が、どのくらい配備されており、兵士たちはどのような思いを抱えながら任務にあたっていたのだろうか……。 取材では、沖縄に核兵器が配備されることになった時代背景や国家の思惑を明…

Love at Goon Park

留守の家から犬が降ってきた ―心の病にかかった動物たちが教えてくれたこと― 作者:ローレル・ブライトマン 青土社 Amazon 生活をいっそう困難にし、悲しいことに、ときには生きていくことさえできなくなるような激しい感情の嵐に苦しむ動物は人間だけではな…

Worst Behavior

エラー 作者:山下紘加 河出書房新社 Amazon 主人公の一果はフードファイター、テレビ番組「真の大食い王者は誰だ?!」では4連覇を達成し、チャンピオンの座に君臨している。陽の目こそ見なかったものの元グラドルというルックスと上品な食べ方から「大食いク…

ドント・ルック・アップ

最悪の予感 パンデミックとの戦い 作者:マイケル ルイス 早川書房 Amazon 本書の出発点は、あまり褒められたものではなく、なかば義務感、なかば日和見主義だった。トランプ政権の前半、わたしは『The Fifth Risk(第五のリスク)』という本を書いた。その中…

風の歌を聴け

わたしたちに許された特別な時間の終わり (新潮文庫) 作者:利規, 岡田 新潮社 Amazon この話は2003年の3月某日、「アメリカがイラクへの攻撃を開始する、数日前」に始まり、その5日後に終る。 本書所収の「三月の5日間」について語るその前に、「この話は、1…

ヌードの夜

脱毛の歴史 作者:レベッカ・M・ハージグ 東京堂出版 Amazon 現代のアメリカで、体毛の意識的な除去ほど当たり前と見なされている習慣はない……最近の研究によると、アメリカ人女性の99パーセントはみずからの意思で脱毛している。定期的に脱毛している人は85…

人倫の形而上学

爆弾 作者:呉勝浩 講談社 Amazon それは野放しのハードドラッグがもたらす、ごくありふれた日常の一コマ。風采の上がらない中年男が、贔屓の野球チームが見どころなく敗れた腹いせに自棄酒を煽り、酔いに任せて自販機を蹴りつけ、さらに止めに入った店員を殴…

聖者の行進

ゴーストランド: 幽霊のいるアメリカ史 作者:コリン・ディッキー 国書刊行会 Amazon これは、幽霊に関する主張の真偽について語る本ではない。……どれだけ多くの証拠があろうと、幽霊に懐疑的な人を納得させることはできないし、懐疑論者がどれだけ多くの虚偽…

馬鹿になれ

猪木と馬場 (集英社新書) 作者:斎藤文彦 集英社 Amazon ぼくたちは“宿命のライバル”というフレーズが大好きだ。ここでいうぼくたちとは、戦後から高度経済成長期育ちの昭和のキッズだった“ぼくたち世代”のことだ。…… 馬場と猪木のライバル・ストーリーは、同…

因果は巡る糸車

餓死した英霊たち (ちくま学芸文庫) 作者:彰, 藤原 筑摩書房 Amazon 第二次世界大戦(日本にとってはアジア太平洋戦争)において、日本人の戦没者数は310万人、その中で軍人軍属の死者数は230万人とされている。…… この戦争で特徴的なことは、日本軍の戦没者…

センチメンタル・ジャーニー

ジュリアン・バトラーの真実の生涯 作者:川本直 河出書房新社 Amazon ジュリアン・バトラーの名前を知ったのは1995年、15歳の時だ。トルーマン・カポーティとゴア・ヴィダルを耽読していた僕は、二人と並び称されるジュリアン・バトラーという作家を発見した…

平気でうそをつく人たち

キツネ目 グリコ森永事件全真相 作者:岩瀬 達哉 講談社 Amazon グリコだけでなく、森永製菓やハウス食品など菓子メーカーや食品メーカーの経営者の心理を手玉にとり、言葉をもてあそびながら執拗に脅すことで相手を屈服させ、カネを脅し取ろうとしたのがかい…

聞いてないよ

患者の話は医師にどう聞こえるのか 作者:ダニエル・オーフリ みすず書房 Amazon 現代医学には高度な診断ツールがあるとはいっても、医師と患者の会話は、やはり主要な診断ツールである。皮膚科など視覚にもとづく領域や、外科など処置が基本となる領域でさえ…

幸福観察学会

妖怪と歩くドキュメント・水木しげる (文春文庫) 作者:足立 倫行 文藝春秋 Amazon 私はもともと本書を水木しげるの同行記のつもりで執筆した。水木マンガ論を書くのは最初から自分の役目ではないとわかっていた。時系列に沿った伝記も、すでに自伝が5冊(今…

ドライブ・マイ・カー

きらめく拍手の音 手で話す人々とともに生きる 作者:イギル・ボラ リトル・モア Amazon 私は、手で話し、愛し、慈しむ人たちの世界が特別なんだと思ってきた。正確に言うと、自分の父や母が誰より美しいと思っていた。口の言葉の代わりに手の言葉を使うこと…

「人生は1本の竿に如かず」

釣り名著50冊 作者:世良康 つり人社 Amazon 本書は、『月刊つり人』に2014年6月号より、いまも連載している『釣本耽読』のうちから、50人の著作50冊を選び、加筆訂正をして単行本化したものである。 古今東西の釣り好きたちが著した釣本の森に深く足を踏み入…

ぼくは物覚えが悪い

ミシンと金魚 (集英社文芸単行本) 作者:永井みみ 集英社 Amazon あの、ですね。つかぬことを、おうかがいしますが。 あい。 いよいよだ。いよいよ、くる。決定的な、なんかが。 カケイさん。 あい。 カケイさんは、今までの人生をふり返って、しあわせでした…

砂の惑星

オン・ザ・プラネット 作者:島口 大樹 講談社 Amazon どれくらい経ったかわからない。いつからか風の音がしている。その世界を知るためのものはまだそれしかない。近くでか遠くかで鳴っているのはおそらく風の音だがそれも定かではない。何も見えない。音だ…

「信頼できない語り手」

皆のあらばしり 作者:乗代 雄介 新潮社 Amazon 平日の皆川城址に人は滅多に来ない。栃木駅からだいぶ離れていて、観光客も車で来るしかないようなところだけれど、今日も一台だって見当たらない。山の斜面を削るなり盛るなりして平らに作った曲輪が螺旋状に…

The Abe Family

切腹考 鷗外先生とわたし (文春文庫 い 99-2) 作者:伊藤 比呂美 文藝春秋 Amazon 世の中に切腹愛好家多しといえども、実際に生の切腹を見たことがある人はなかなかいないだろう。わたしはそのひとりなのだった。…… うむと突き刺したとたんに、彼の顔が、さー…

石を黙らせて

なぜならそれは言葉にできるから――証言することと正義について 作者:カロリン・エムケ みすず書房 Amazon 本書では、語ることの障壁を突き止める一方で、まさにその障壁を――他者と力を合わせることで――克服可能なものだと主張したい。この二重の主張は、奇妙…

もうすぐ絶滅するという紙の書物について

編集者とタブレット (海外文学セレクション) 作者:ポール・フルネル 東京創元社 Amazon 私の頬の下にあるのは、恋愛小説の原稿。男と女が出会い、男は結婚していて、女には彼氏がいるという物語……。7ページ読めば、あとは読まなくてもわかる。はっと驚かされ…

WeCrashed

都市危機のアメリカ――凋落と再生の現場を歩く 作者:矢作 弘 岩波書店 Amazon 本書では、「ジェントリフィケーションの激化」「GAFAに代表される情報通信ハイテク産業の急成長」「ラストベルトの旧煤煙型都市の復活」、そして「郊外の変容」を切り口に、転換…

Roar

82年生まれ、キム・ジヨン 作者:チョ・ナムジュ 筑摩書房 Amazon キム・ジヨン氏に初めて異常な症状が見られたのは9月8日のことである。……チョン・デヒョン氏[ジヨンの夫]がトーストと牛乳の朝食をとっていると、キム・ジヨン氏が突然ベランダの方に行って…

母をたずねて三千里

Schoolgirl (文春e-book) 作者:九段 理江 文藝春秋 Amazon 「あさ、眼をさますときの気持は、面白い」―― そう思えたのも遠い昔、「わからないな。ただ朝に目が覚めることの、何がそんなにおもしろかったんだっけ。ここにあるのは、おなじみの頭痛と喉の渇き…

そうだ ネパール、行こう。

医師が死を語るとき――脳外科医マーシュの自省 作者:ヘンリー・マーシュ みすず書房 Amazon 大工道具や書籍、先祖から受け継いだ絵画やアンティーク家具。これらすべてよりも価値のある、私の所有物の中でもっとも貴重な品物は、自宅に隠してある自殺キットだ…

すべての男は消耗品である

骨を撫でる 作者:三国 美千子 新潮社 Amazon 本書は二冊の中編小説を収める。 続編ということでも外伝ということでもない、しかし両者を対にして並べることでようやく作者の主題が浮上する。というか、先に書かれただし本テキストでは後ろに配置された「青い…

論語と算盤

しょぼい喫茶店の本 作者:池田達也 百万年書房 Amazon 僕は働きたくなかった。 ただただ働きたくなかった。 理由はよくわからない。…… 別に人間関係が悪かったとかブラックバイトだったというわけじゃない。働いている間ずっとスイッチを入れ続けている、あ…

地獄でなぜ悪い

しんせかい(新潮文庫) 作者:山下澄人 新潮社 Amazon 二期生募集 その新聞は家に間違えて配達されたものだった。間違えて配達された新聞にその記事はあった。それは俳優と脚本家、脚本家というものが何なのかよくわからなかったので辞書で調べた、を目指す…

墓のうらに廻る

死んでいない者 (文春文庫) 作者:滝口 悠生 文藝春秋 Amazon 押し寄せては引き、また押し寄せてくるそれぞれの悲しみも、一日繰り返されていくうち、どれも徐々に小さく、静まっていき、斎場で通夜の準備が進む頃には、その人を故人と呼び、また他人から故人…