All the Things She Said

小さな場所 (文春文庫) 作者:東山 彰良 文藝春秋 Amazon ちょうどそのころ、国語の授業で作文の宿題が出た。課題はなんと「わたしの街」! ぼくは紋身街のことを書こうとして、またもや愕然とした。口のなかが干上がり、原稿用紙に汗がぽたぽたと滴り落ちた…

バベルの図書館

アーカイブの思想――言葉を知に変える仕組み 作者:根本 彰 みすず書房 Amazon ここでアーカイブというのは、後から振り返るために知を蓄積して利用できるようにする仕組みないしはそうしてできた利用可能な知の蓄積のことです。…… アーカイブは歴史的に構築さ…

デッドレコニング

不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか (講談社現代新書) 作者:鴻上尚史 講談社 Amazon ある本の小さな記述によって、「9回特攻に出撃して、9回生きて帰ってきた」人のことを知りました。 その人は、陸軍の第一回の特攻隊のパイロットでした。 海軍の第…

夜空ノムコウ

世界は五反田から始まった ゲンロン叢書 作者:星野博美 株式会社ゲンロン Amazon 私の出身地、そして現居住地は、東京都品川区の戸越銀座である。祖父の代から1997年まで、私の家族はここで町工場を営んでいた。…… これから私は延々と、五反田界隈の話をする…

長距離ランナーの孤独

孫基禎―帝国日本の朝鮮人メダリスト (中公新書 (2600)) 作者:金 誠 中央公論新社 Amazon 日本が朝鮮半島を植民地としていたのは1910~45年までだった。その植民地期に生まれた孫基禎は、朝鮮半島出身の日本選手としてヒトラー政権下のドイツで開催されたベル…

地獄の黙示録

ベトナム戦記 新装版 (朝日文庫) 作者:開高 健 朝日新聞出版 Amazon この国には四つの政府があるようだ。内閣と、将軍たちと、仏教徒と、ベトコンである。四つのうち内閣と将軍たちはネコの眼よりいそがしく変るからお話にならぬ。仏教徒とベトコンだけが統…

インフィニティ・ウォー

独ソ戦 絶滅戦争の惨禍 (岩波新書) 作者:大木 毅 岩波書店 Amazon 総統アドルフ・ヒトラー以下、ドイツ側の指導部が、対ソ戦を、人種的に優れたゲルマン民族が「劣等人種」スラヴ人を奴隷化するための戦争、ナチズムと「ユダヤ的ボリシェヴィズム」との闘争…

ストーリーが世界を滅ぼす

テレビはプロレスから始まった 全日本プロレス中継を作ったテレビマンたち 作者:福留崇広 イースト・プレス Amazon 力道山、木村〔政彦〕とシャープ兄弟の闘いから始まったテレビとプロレスの歴史は、まもなく70年を迎える。その中で唯一、テレビ局が設立を…

先生、どうか皆の前でほめないで下さい

ロシア語だけの青春 (ちくま文庫 く-26-4) 作者:黒田 龍之助 筑摩書房 Amazon わたしはここに、ミール・ロシア語研究所の物語を書き留めようと思う。 高校3年生から10年以上、多くの時間を費やしてここに学び、のちには教えることになった大切な母校。留学す…

花に亡霊

亡霊ふたり (創元推理文庫) 作者:詠坂 雄二 東京創元社 Amazon 若月ローコは名探偵に憧れているのだ。 不可思議な謎、怪人と呼ぶにふさわしい犯罪者、明晰な頭脳と行動でそうしたものと渡り合い、活躍する物語の主役である。夢想としてさえ描くものも少ない…

バッカナリア

熱狂のソムリエを追え! ワインにとりつかれた人々との冒険 作者:ビアンカ・ボスカー 光文社 Amazon 本書は私がフレーヴァー・フリーク、知覚科学者、稀少ボトルのコレクター、嗅覚の達人、ほろ酔いの快楽主義者、規定無視のワイン生産者、そして世界でもっと…

尾張名古屋は城で保つ

生と性が交錯する街 新宿二丁目 (角川新書) 作者:長谷川 晶一 KADOKAWA Amazon 新宿二丁目――。 本来ならば、ただの地名であるはずのこの言葉にはさまざまなニュアンスが付与されている。多くの人が「新宿二丁目」と耳にするとき、口にするとき、そこには別の…

Blue Regions

フィンランド 虚像の森 作者:ペッカ・ユンッティ,アンナ・ルオホネン,イェンニ・ライナ 新泉社 Amazon 森と信じていたものが、森ではなかったということに、今になって気づいた。 写真撮影のためにヘリコプターで上空から見下ろすと、細い水の流れを表す青い…

白い巨塔

大学病院の奈落 (講談社文庫) 作者:高梨ゆき子 講談社 Amazon ゴールデンウィークのただ中にあったその日、一時付き添いを離れていた家族が、急変の知らせで病院に呼び出されて駆けつけたとき、ベッドに横たわっていた男性は、すでに蘇生のための心臓マッサ…

残酷な天使のテーゼ

悪魔と呼ばれたヴァイオリニスト パガニーニ伝 (新潮新書) 作者:浦久 俊彦 新潮社 Amazon ニコロ・パガニーニ。その驚異的な技巧でヨーロッパ中を狂乱させ、「悪魔」と呼ばれたヴァイオリニストである。ナポレオンの妹など貴婦人たちに囲われ、博打と酒と女…

平和への祈り

銀幕の銀座 - 懐かしの風景とスターたち (中公新書) 作者:川本 三郎 中央公論新社 Amazon 月刊のタウン誌『銀座百点』に連載した。当初は1年の予定だったが、2年にのび、さらに3年にのびた。計36本。 昔の日本映画――、昭和の初めから昭和2、30年代の映画を…

ノゾミ・カナエ・タマエ

中野ブロードウェイ物語 作者:長谷川 晶一 亜紀書房 Amazon 2021(令和3)年、中野ブロードウェイは誕生55周年を迎えた。 66年には「東洋一のビルディング」と称され、高級マンションの先駆けだったこの建物も、80年代には過疎化が進みシャッター通りが並ん…

国民とは何か

絶滅危惧個人商店 (単行本) 作者:理津子, 井上 筑摩書房 Amazon ここにあったあの店が、いつの間にか消えている。チェーン店に変わっている。そんな光景に出くわすたび、さみしいなあ、と思う。大変に失礼な物言いだが、個人商店が「絶滅の危機に瀕している…

白い狂気

カラー版 東京の森を歩く (講談社現代新書) 作者:福嶋 司 講談社 Amazon 東京には森はあまりないと思う人が多いのではないだろうか。人びとが多く住む市街地には森が少なく、島嶼部や奥多摩に偏在していることが原因であろうが、じつは東京全体に占める森の…

サボテンの花

「おふくろの味」幻想~誰が郷愁の味をつくったのか~ (光文社新書) 作者:湯澤 規子 光文社 Amazon 聞きなれた言葉であるがゆえに、実体があると思い込んでいるもの。しかし、よく考えてみると、それは実際に存在するのか否か曖昧模糊としており、もしかした…

思いを伝えるということ展のすべて

出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと (河出文庫) 作者:花田菜々子 河出書房新社 Amazon 「X」という奇妙な出会い系サイトの存在を知ったのは、引っ越したばかりの頃だろうか。若い社会起業家の親書を流し…

太陽を盗んだ女

万事快調〈オール・グリーンズ〉 (文春文庫) 作者:波木 銅 文藝春秋 Amazon 朴秀実、岩隈真子、矢口美流紅は、「偏差値低めの田舎の」工業高校機械科の同級生、30人編成のクラスの中でたった3人きりの女子。その歪な男女比にあっても、シスターフッドの匂い…

Bad Day

職業欄はエスパー (角川文庫) 作者:森 達也 KADOKAWA Amazon 1974年3月。ユリ・ゲラーが初めて来日してテレビのスペシャル番組でスプーン曲げを披露したとき、僕は17歳の高校生だった。 番組が放送されたその夜、自宅でテレビを見ていた当時のクラスメートの…

わたしの見ている世界が全て

帝都公園物語 作者:辰郎, 樫原 幻戯書房 Amazon 生まれ育った大阪を離れて東京に来たばかりの頃の話である。ちょっとした調べ物で都立図書館に初めて行くことになって、地下鉄広尾駅の改札を出ると地図を頼りに歩きはじめた。ご存じの方も多いと思うけれど、…

中二病でも恋がしたい!

島田清次郎 誰にも愛されなかった男 作者:風野春樹 本の雑誌社 Amazon 島田清次郎と言っても、現在ではその名前を知る人は少ないだろう。作品も入手は難しく、すっかり忘れ去られた作家になっている。しかし、大正時代の当時は知らないものはないほどの人気…

Everyday Is a Winding Road

偽りのサイクル 堕ちた英雄ランス・アームストロング 作者:ジュリエット・マカー 洋泉社 Amazon 私とランス・アームストロングは、約10年にもわたって天敵同士のような関係を保ってきた。彼のエージェントのビル・ステイプルトンに初めて“告訴する”と脅され…

ある小説家の生涯と弁明

身内のよんどころない事情により (Shinchosha CREST BOOKS) 作者:ペーター・テリン 新潮社 Amazon それは気乗りのしないパーティーをキャンセルするために、その小説家、エミール・ステーフマンが何気なく思いついた一言に過ぎなかった。 〈身内のよんどころ…

コロンブスの卵

千利休 切腹と晩年の真実 (朝日新書) 作者:中村修也 朝日新聞出版 Amazon 千利休は天正十九年(1591年)2月28日に切腹して果てた、と400年を超える年月言い続けられましたが、本書では、それを否定しています。これはなかなか勇気のいることです。しかし、豊…

松樹千年翠

松と日本人 (講談社学術文庫) 作者:有岡 利幸 講談社 Amazon 松は、わが国の樹木のなかでもっとも普通にみられる樹木で、北海道と高山帯を除けば国内の到るところに生育している。古代から、日本人の生活範囲の拡大とともにその生育地域を拡げてきた樹木の一…

会いたかった

ソーダと炭酸水の歴史 (「食」の図書館) 作者:ジュディス・レヴィン 原書房 Amazon 本書では、炭酸飲料がなぜ、どのようにしてこれほど世界中で人気のある飲み物になったのか、そして、長い年月の間に、さまざまな場所でどのように変化してきたのかを検討し…