他山の石

抵抗の新聞人 桐生悠々 (岩波現代文庫 社会 327) 作者:井出 孫六 岩波書店 Amazon 時は明治の世、「帝大法学部を出た“学士さま”の身をもって、望みさえすれば、三井・三菱であろうが日銀・大蔵省であろうが、あるいはまた裁判官・検事であろうが、精選された…

ハンガリー狂詩曲

あなたの燃える左手で 作者:朝比奈秋 河出書房新社 Amazon 1965年の小島信夫は、妻の米兵との不倫を契機に崩壊していく一家族に仮託して、ポスト戦後のアメリカ的なるものの浸潤に伴ってキャンセルされていく日本社会、あるいはその変化に対応できない男性原…

おかげさまで

ええじゃないか 民衆運動の系譜 (講談社学術文庫) 作者:西垣 晴次 講談社 Amazon 「ええじゃないか」は約300年にわたる長い間、民衆を支配してきた徳川幕府が、政権を京都の朝廷に奉還し、幕府最後の年となった慶応三(1867)年の夏ごろから翌年のはじめにか…

マネーの虎

不老不死ビジネス 神への挑戦 シリコンバレーの静かなる熱狂 作者:チップ・ウォルター 日経ナショナル ジオグラフィック Amazon 世界ではこれまでもすごいことが起こってきたが、死ほど手ごわい敵がいただろうか。数十億ドルの金が用意されていて、政界や経…

新しい日常

東京の古本屋 作者:橋本倫史 本の雑誌社 Amazon 古本屋と聞いて、どんな姿を思い浮かべるだろう。 一日のほとんどを帳場に腰掛けて過ごし、読書をしながら静かに客を待つ店主の姿だろうか。あるいは、立ち読みをする客がいればハタキをかけ、咳払いの一つで…

黄色い本

増補 本屋になりたい ――この島の本を売る (ちくま文庫) 作者:宇田 智子 筑摩書房 Amazon 古本屋の大変さは、自由さと裏表だ。必ず置かなければいけない本はなく、買い取りたくない本は断ってもいいし、本には好きな値段をつけられる。出版社や取次と交渉する…

仮面舞踏会

##NAME## 作者:児玉雨子 河出書房新社 Amazon 「せつなって、本当にせつな?」 「私」こと石田雪那はジュニアアイドル。事務所に入所する際に母が関係者に促されるまま、ひらがなで契約書に記したのが、「石田せつな」というその芸名だった。 「なん…

愛と沈黙

キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン: オセージ族連続怪死事件とFBIの誕生 (ハヤカワ文庫NF) 作者:デイヴィッド・グラン,David Grann 早川書房 Amazon 1921年5月24日、オセージ族が暮らすオクラホマ州の町グレーホースの住人、モリー・バークハートは、3人い…

時来たりなば

園芸家の一年 (平凡社ライブラリー) 作者:カレル チャペック 平凡社 Amazon 亡くなったわたしの母は、若いころ、よくカードで一人占いをしていたが、そんなときにはいつも、ひと山のカードに向かってささやいた――。 「何をわたしは踏んでいるか?」 その当時…

リバティアイランド

ユートピアとしての本屋:暗闇のなかの確かな場所 作者:関口 竜平 大月書店 Amazon これは本屋を始めてから気がついたことなのですが、どうも本屋はユートピア(を目指すこと)と同じ、ないしは似ている存在のようです。本屋には終わり、あるいは完成形とい…

死せる魂

ウクライナ・ダイアリー 不屈の民の記録 (角川書店単行本) 作者:古川 英治 KADOKAWA Amazon 2022年2月23日午後9時7分、長年のロシアの取材先であるXからメッセージが入った。 「おそらく今晩だ」 私はあわてて返信した。 ――全面侵攻か? 「そうだ。部分的な…

ストリートファイター

ゲーセン戦記 ミカド店長が見たアーケードゲームの半世紀 (中公新書ラクレ) 作者:池田稔 中央公論新社 Amazon たしかにゲームセンターは、時代の流れに逆行した旧世代の遺物だと思われがちだ。 コスパが悪い、最新ゲームがない、マニア向けの商売、空気が悪…

What's the Big Idea?

動物園から未来を変える―ニューヨーク・ブロンクス動物園の展示デザイン 作者:川端裕人,本田公夫 亜紀書房 Amazon 本書は、アメリカ・ニューヨーク市にあるブロンクス動物園(正確にはWCS:Wildlife Conservation Society)で、展示グラフィックアーツ部門の…

誰がために教誨師はいる

教誨師 (講談社文庫) 作者:堀川惠子 講談社 Amazon 拘置所という施設は、被告人が裁判の判決が確定するまでの間に拘留される場所だ。ほとんどの者は実刑判決確定後、すぐに刑務所へと送られる。しかし、「死刑」判決を受けた者だけは処遇が異なる。彼らは死…

三文芝居

ルビンの壺が割れた(新潮文庫) 作者:宿野かほる 新潮社 Amazon 突然のメッセージで驚かれたことと思います。失礼をお許しください。 仕事終わりに、いつものように何気なくフェイスブックの歌舞伎のページを覗いていると、未帆子という名前を目にしました…

ごちそうさまが、ききたくて。

オールド台湾食卓記 ――祖母・母・私の行きつけの店 (単行本) 作者:洪 愛珠 筑摩書房 Amazon 台湾は若いと同時に、歴史が豊かに層をなした島でもあります。衝突でできた傷もあれば、融合が生んだ美しさもあります。本書を執筆した当初の動機は、母の死去をき…

コロナの時代の僕ら

ヴァクサーズ――オックスフォード・アストラゼネカワクチン開発奮闘記 みすず書房 Amazon これは、ある競争にまつわる物語だ。もっともそれは、よく描かれがちな、他のワクチンを開発する他の開発者との競争ではない。……これは、恐るべきウイルス、すなわち、…

なんとなく、クリスタル

ブックオフから考える 「なんとなく」から生まれた文化のインフラ 作者:谷頭和希 青弓社 Amazon ブックオフの社会的・文化的意義とはどこにあるのか――。 これが、本書に課されたミッションです。 そして、それを解く鍵が、ブックオフが持つ「なんとなく性」…

将来之日本

新装版 苦海浄土 (講談社文庫) 作者:石牟礼 道子 講談社 Amazon 突然、戚夫人の姿を、あの、古代中国の呂太后の、戚夫人につくした所業の経緯を、私は想い出した。手足を斬りおとし、眼球をくりぬき、耳をそぎとり、オシになる薬を飲ませ、人間豚と名付けて…

射精責任

燕は戻ってこない (集英社文芸単行本) 作者:桐野夏生 集英社 Amazon 上京しても何のいいこともなく、むしろ、どんどん悪くなってゆくのはなぜだろう。故郷に帰っても仕事がないし、東京に出る時に父親とは大喧嘩したから、意地でも帰りたくない。てか、その…

レガシーワールド

世界金玉考 作者:西川 清史 左右社 Amazon キンタマとがっぷり四つに組んで一冊の本を書いたら、いったいどういうものができあがるのか、皆目見当がつかなかった。ただ、これまでお目にかかったことのないような面白い本になる予感だけはあった。類書はない…

スーパーキノコ

きのこのなぐさめ 作者:ロン・リット・ウーン みすず書房 Amazon この本のタイトルは当初、『きのこの発見』にするはずだった。人類学者である私のきのこの世界への旅と、旅の途中で出会ったきのことその愛好家への驚嘆を綴った本に。目の前が真っ暗だったの…

サバービアの憂鬱

国道16号線: 「日本」を創った道 作者:柳瀬 博一 新潮社 Amazon 日本の歴史の中心には、有史以来現代に到るまで、1本の道が走っている。 「国道16号線」だ。 東京の中心部からほぼ30キロ外側、東京湾をふちどるようにぐるりと回る、実延長326.2キロの環状道…

民衆暴力

福田村事件 関東大震災・知られざる悲劇 作者:辻野 弥生 五月書房新社 Amazon 大正12年(1923年)9月1日の関東大震災発生から100年の節目を迎えた。…… 地震発生からほどなく「朝鮮人が井戸に毒を入れた」「火をつけた」などの流言が広がり、各地で多くの朝鮮…

あんなカレーにな

君のクイズ 作者:小川 哲 朝日新聞出版 Amazon 僕は第一回『Q-1グランプリ』のファイナリストとして、六本木のスタジオの解答席に立っていた。……賞金は一千万円――手にしたことのない大金で、おそらくそれなりに人生が変わる額だ。…… 「ついに大詰めです。次…

見ろ! 人がゴミのようだ!

戦争とデータ―死者はいかに数値となったか (中公選書) 作者:五十嵐元道 中央公論新社 Amazon 本書は、多種多様な国際政治上のデータのなかでも、戦争のデータについて考える。 戦争は、国際政治上の現象のなかでも最悪のもののひとつだ。それゆえ、戦争全体…

All the Things She Said

小さな場所 (文春文庫) 作者:東山 彰良 文藝春秋 Amazon ちょうどそのころ、国語の授業で作文の宿題が出た。課題はなんと「わたしの街」! ぼくは紋身街のことを書こうとして、またもや愕然とした。口のなかが干上がり、原稿用紙に汗がぽたぽたと滴り落ちた…

バベルの図書館

アーカイブの思想――言葉を知に変える仕組み 作者:根本 彰 みすず書房 Amazon ここでアーカイブというのは、後から振り返るために知を蓄積して利用できるようにする仕組みないしはそうしてできた利用可能な知の蓄積のことです。…… アーカイブは歴史的に構築さ…

デッドレコニング

不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか (講談社現代新書) 作者:鴻上尚史 講談社 Amazon ある本の小さな記述によって、「9回特攻に出撃して、9回生きて帰ってきた」人のことを知りました。 その人は、陸軍の第一回の特攻隊のパイロットでした。 海軍の第…

夜空ノムコウ

世界は五反田から始まった ゲンロン叢書 作者:星野博美 株式会社ゲンロン Amazon 私の出身地、そして現居住地は、東京都品川区の戸越銀座である。祖父の代から1997年まで、私の家族はここで町工場を営んでいた。…… これから私は延々と、五反田界隈の話をする…